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古くて新しい触媒の魅力

触媒設計学グループ 水垣 共雄 教授

2021-02-08

 私たちの快適な生活を支える身の回りの化学製品のほとんどは、これまで石油や石炭など化石資源由来の原料から製造されてきました。しかし資源・環境問題や温室効果ガス削減の観点から、化学産業にはグリーンケミストリーや3R(リデュース・リユース・リサイクル)を考慮したモノづくりが求められています。
 日本政府もグリーン社会の実現にむけて、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると宣言しています。SDGs(持続可能な開発目標)の達成には、化石資源から再生可能資源に化学品原料を転換したり、資源リサイクル技術を開発することが喫緊の課題です。触媒は、化学プロセスの90%以上で用いられているとも言われ、環境に優しいモノづくりには、触媒の進化が欠かせません。これからは、代替資源となるバイオマスの有効利用や水素製造の他、燃料電池や充電池など触媒の活躍する分野はますます広がっていくと期待されています。

分厚い蓄積が研究室の強み

 触媒研究の歴史は今から200年ほどまで遡れますが、分析機器や研究手法の進歩で、どんどん新しいアプローチが可能になっています。材料を電子顕微鏡で原子のレベルで観察したり、大型放射光施設(SPring-8)を使って実際の反応状況に近い条件で触媒の構造変化を調べたりし、その成果を触媒の開発にフィードバックすることができるようになりました。
 基礎工学部に触媒を研究する講座が1965年に創設されて以来、私で5人目の教授になります。触媒分野の必要性を認めていただいていると、気持ちを新たにして研究に取り組んでいます。現在、私たちの研究室では、金属ナノ粒子や合金ナノ粒子を粘土のような無機化合物に固定した固体触媒を中心に研究しています。触媒研究はノウハウの塊です。ナノ粒子を作るにしても、そのサイズや組成、作り方で触媒の力が大きく変わるときがあります。公開されてきた論文だけでなく、そこには書いていない実験結果や、「この方法ではうまくいかなかった」という膨大なデータをたくさん積み上げていることが、我々の研究室の強みでしょう。
 今後は、研究室がコアとして持っている技術をさらに発展させて、バイオマスの転換や二酸化炭素の削減といった分野にも研究の視野を広げていきたいと考えています。

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「現場がわかる」化学と異分野融合で産業にも貢献

 我々の研究室は「化学工学」に所属していることもあって、基礎研究に加えてより現場に近い感覚をもっている研究室でもあります。企業の人から話を聞いていて「だいたいこのへんに問題がありそう」「これを使えばいけるかな」と感触をつかめることはしばしばあります。欲しいものを作る際にどういう触媒が使えそうか探している企業に、「これを使えばもっとクリーンに作れますよ」「貴金属の触媒を減らせるかもしれません」と助言できる引き出しは多くあります。
 最近は、基礎工学部の共同研究講座に顔を出して、新たな共同研究が少しずつ動きだしています。共同研究講座を主宰する企業側から「こんな材料があるのだけど、何かに使えませんか」と、わりと漠然と始まりました。理論系の研究者や化学分析の専門家がアイデアを出し合って協力しているところに、触媒機能を調べる我々も加えてもらって、基礎工学部ならではの面白い共同研究が始まっています。課題を明確にした企業との直接の共同研究とは性格が異なり、お互いにアイデアを出し合いながら一緒に何か生み出せれば、という取り組みです。
 基礎工学部は、創設時から異分野融合を目指してできた学部なので、化学系だけでなく物性、機械、電気、システム、生物も情報といった多様な領域の研究室が同じ建物に入っています。ふらっと廊下を歩いているだけでも「こんなことをやってるんだ」と知識も増えて、アイデアが湧いてくることがあります。ここでは、「異分野融合」と肩肘張って力む必要がない環境が自然とできていることも、今の触媒研究に活きているように思います。
 これからは、この恵まれた環境を活かしてロボットを使った自動合成、3Dプリンタ技術を使うような触媒や反応装置の作成技術、AIやスパコンによる計算化学を利用した触媒の開発など、複合領域にまたがる研究への発展や産学連携にも期待しています。

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