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ナノ空間から地球規模の課題解決へ

ナノ反応工学グループ 西山 憲和 教授

2022-04-01

持続可能社会に向けたカーボンニュートラルモノづくりプロセスの構築

 ペットボトルやポリエステル衣料などの化学製品は、石油から製造しています。こうした製品の大量生産は大量廃棄を生み、製品をリサイクルしたとしても大量のエネルギーを消費する状態が続きます。排出される二酸化炭素の量が減ることはありません。
 それがもし、発電所や工場から排出される二酸化炭素から化学製品の原料を量産できるとしたらどうでしょうか。まさに、省エネルギーかつ、脱炭素社会に多大な貢献をもたらすことになります。
 近年、こうした環境問題という地球規模の課題を前に、国も企業も一体となって解決しようという機運が大きな高まりを見せています。その影響は、関連する分野にも波及し、カーボンリサイクル(二酸化炭素の資源利用)に関わる研究が、さまざまな形で盛んに行われるようになってきました。物質やエネルギーの変換システムを扱う化学工学、および反応工学の学問分野の役割は今後ますます大きくなってくると思われます。
 反応工学は、分子レベルのミクロな視点から反応のメカニズムを解明し、それをもとにマクロな視点で最適な反応装置を設計することを目的とした学問です。反応装置と聞くと大きなものを想像するかもしれませんが、私の研究では目に見える装置ではなく、ナノ空間と呼ばれるミクロな分子レベルの空間を反応装置として利用しています。化学装置として有効な「ナノ空間材料」を触媒・吸着材・分離膜素材として使い、物質の変換と分離を促す研究に取り組んでいます。

独自の工夫で「ナノ空間材料」を化学反応装置に

Nishiyama_image02.jpg 私が主に触媒として利用しているナノ空間材料は、ゼオライトと呼ばれる鉱物です。ゼオライトの結晶構造は100種類以上存在し、多種多様な分子レベルのナノ空間を有しています。分子サイズや形状によって選択的にナノ空間に取り込む機能が備わっています(分子ふるい・形状選択性)。つまり、ゼオライトの種類によって、受け入れる分子が決まっています。そのため、目的にあったゼオライト(ナノ空間)をいかに設計するかということが重要な課題となっています。では、そうして設計し合成したナノ空間が、どのようにして化学反応装置となり、どのような過程を経て新たな物質を生成していくのでしょうか。二酸化炭素から、ペットボトルの原材料となるパラキシレンが生成される過程を例に見てみましょう。
 まずナノ空間材料を用いて、二酸化炭素を分離・濃縮します。そのためには、二酸化炭素と親和性の高いナノ空間が並んだ多孔体の開発が必要となります。ナノ空間材料の形態制御にも取り組んでおり、例えば薄膜化することで、二酸化炭素を連続的に膜分離することが可能となります。二酸化炭素は、モノづくりの基幹物質の一つであるメタノールに変換されます。次に、メタノールは、ゼオライトのナノ空間内でいくつもの反応を重ねてパラキシレンになります。つまり、メタノールもパラキシレンも、ナノ空間を通過するのにちょうどよい分子サイズであることが、ひとつ目の鍵です。
 もうひとつ重要なポイントとなるのは、ゼオライトのナノ空間を連結させる必要があるということです。パラキシレンは、キシレンの3種類の同位体のひとつです。生成したパラキシレンの一部は、ナノ空間の出口付近で他のキシレンに変換されてしまいます。そこで、ナノ空間の出口に、触媒活性のないナノ空間を連結させ、機能を付加することで、パラキシレンが選択的に生成される空間を構築しました。
 こうしたナノ空間材料を利用した新技術の開発は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの一環としても実施しています。また、ゼオライトを用いて廃棄プラスチックを分子レベルまで分解し、再資源化するケミカルリサイクル技術の確立も探っています。これらの技術は、持続可能社会に向けたカーボンニュートラルの実現に欠かせないものです。

ミクロからマクロへの壮大なスケール変換が魅力

 Nishiyama_image03.jpg 現在は、NEDOのプロジェクトのほか、新たなケミカルリサイクル事業を起こそうとしているベンチャー企業とも連携しながら研究を行っています。このように、今の時代は環境分野関連の共同研究が多くなっています。これまで私の研究では、ナノ空間をどうやって作るか、あるいはその空間で何が起こるかに興味をもって取り組んでいましたが、それが社会問題の解決に大きく貢献できることは基礎工学研究の強みと思っています。
 10のマイナス9乗という人の目に見えないほどの小さな世界(ナノ空間)で起こる化学反応が、地球規模の課題である持続可能社会の構築につながります。こうした、ナノから一気に10の何乗にもなる壮大なスケール感を持っていることが、この研究の面白さです。
 ナノ空間材料は、対象となる物質や構造の多様性によって新しい特性や現象が次々に見いだされている注目の研究分野です。その時代、時代のニーズに合致する研究ができるよう、さらなる可能性を求めていきたいと考えています。

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大阪大学 基礎工学部 化学応用化学科 化学工学コース
大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学領域

ナノ反応工学グループ 西山研究室